大王様
†Case20:大王様†
通された部屋は天井の高い、高級そうな部屋だった。
頭を下げて、門番さんが出て行くと、部屋の真ん中にある椅子が回転した。
「よく来たな。僕が大王だ」
そう言って机に足を乗せ、椅子に腰かける大王様はどう見ても……子供だ。
しかも小学5年生くらいにしか見えない。
「コイツが大王様?ただのガキじゃねーか!!」
「…この方が、大王様、ですか……?」
二人とも驚きの声をあげる。
ブン太に至ってはかなり失礼なことを口走っている。
まあ、私も知識はあっても今生で見るのは初めてなわけだから、かなり驚いてるけど。
「ガキとはなんだ!!これでも僕は、お前らよりも長く生きてるんだぞ!!」
ムキーッ、と怒る姿は子供っぽいが、霊界人は長生きで容姿と年齢の差があると聞いたことがある。
「名前さま、大王は人間で言えば1000歳を越えているんですよ」
怒られている二人を後ろから眺めていると、私の鞄からひょっこりと顔を出したリューク。
まさか1000歳を越えているなんて思わず、私は固まった。
これは童顔どころの騒ぎじゃないよ。
1000歳って……、さすがとしか言いようがない。
††††††††††
二人を散々怒って気が済んだのか、大王様が不意に私を見る。
すると、大王様は驚いたような顔をした後、嬉しそうに頬を緩めた。
「お前、名前ではないか!僕のこと覚えているか?」
『え?えっと…、覚えてないです』
「……ああ、そういえば、転生すればそれまでの記憶がリセットされるんだったな。…まあ、よい。今のお前に長話はしていられないからな。…そういえば、何でここに来たのだ?」
やっと話しが本題に戻り、私は仁王君を探しにここまで来たことを伝える。
すると、大王様は電話?らしきものでそのことを伝える。
5分後、仁王君の居場所が大王様から伝えられた。
「迷路の中にいるな。芯がしっかりしていないと出口には辿り着けない迷路だ。…まあ、名前なら大丈夫だろう。コレが地図だ。丸井とか言ったな。お前は名前を全力で守れ。それから柳生、死にたくなければ名前を信用しろ。でないと、芯の弱いお前は出口に辿り着けずに死ぬ」
大王様はそう告げると、私の頭を優しく撫でて送り出してくれた。
ちなみに私には前半部分しか聞こえていない。
「…いいのか、大王。こちらと向こうの世界では年月の流れが違う。自分が名前の―――だったことを言わなくて」
「いいんだ。今名前の隣にいるのは僕じゃないんだから。それに、転生せずに霊界人として生きる僕が、そのことを伝える権利はないさ」
黒い影に大王は答える。
大王の瞳は閉じられ、懐かしそうに、愛おしそうに笑みを浮かべていた。
††††††††††
大王様に貰った地図を頼りに迷路までの道のりを歩き、やっと着いた。
ここに本当に仁王君がいるのかと、気配を探る。
………あ、仁王君の気配。
どうやら本当にいるらしい。
『リューク、仁王君を先に探してきてくれないかな?』
「分かりました!!」
柳生君はリュークを一度も見たことがないから、見付からないようにリュークを人間の姿にして迷路に送り込む。
リュークは人じゃないから、この迷路に迷うことはないし、一人でも大丈夫だろう。
リュークの後ろ姿を見送った私は、柳生君とブン太を正面から見る。
霊力はブン太にも柳生君にも、まだ余裕はあるがあまり長くは居られないだろう。
『体調に変化があったら私に言うこと。私から絶対に離れないこと。いい?』
二人が頷いたのを見て、私は迷路に触れる。
迷路の入口を探している暇がないから、無理矢理入口を作るためだ。
「…大丈夫。お前が倒れたら俺が運んでやるからよ!」
荒業に大量の霊力を使い、体力を奪われることを知っているブン太が、迷路に触れていない私の手をぎゅっ、と掴んだ。
††††††††††
心配してくれるブン太に笑いかけ、私は目を閉じる。
手に大量の霊力を送り、思い切り殴ると迷路の壁が一部壊れた。
ド派手な音を立てて崩れたそれに、初めて見た柳生君は原理を知らないからかなり驚いている。
言っておくが、私はゴリラ女ではない。
こういう霊に関係のある場所では、霊力が力の全てなのである。
だから、霊力を手に移動させて手を強化した。
ただそれだけだ。
これは訓練をすれば、霊力の高いものなら誰でも出来る。
一応、ブン太も出来るのだが、私のほうが霊力が高いからね。
『行くよ』
二人に声を掛け、私は先に進む。
迷路の中は暗闇で、扉が沢山ある。
しかも、扉が話し掛けてくるから少し不気味だ。
「あの、名字さん…。扉が話し掛けてくるのですが、無視していいのでしょうか?」
『うん。その扉を抜けても、行きたい所にリンクしてるかは分からないし』
「分からないものには触らない、関わらない。これ鉄則だろぃ?」
『私の台詞パクったね。その通りだけどさ』
数年前に私が言った台詞をブン太が言ったのに、少し笑う。
数年前はブン太が柳生君みたいだったのに、数年で成長したものだ。
私は扉を無視して、二人を連れ、先を急いだ。
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